その日は眠れない夜だった。課題を終わらせて24時に布団に入った僕は、結局2時間目が冴えっぱなしで、いつの間にか腹が減って。何か食べるか…と思い一回布団から出た。バターだけを塗ったトーストを焼いて、まぁもうどうせ寝れないだろうな…と開き直って淹れたカフェオレとトーストを腹に入れる。食べてる間なんとなく頭が暇で、これまたなんとなくテレビをつけた。そしたら、たまたまつけたチャンネルが、何かの映画がやっている途中だった。
人生は旅だとか、人生は1冊の本だとか、人生ってなにかといろんなものに例えられたりする。映画もそのうちのひとつなんじゃないかなと僕は思うことがある。良いことも悪いこともあって、泣いたり笑ったりして、ひとそれぞれの人生があって。1本の映画みたいに。
要するに起伏があるものなら、なんでも人生に例えられるってだけのことなんだろうなと思っている。人生って一筋縄じゃいかないよ〜って、そういうことだ。
テレビでやっている映画は時代の古いものらしく、今の時代のテレビで見ると、画質の粗さが目立つ。でもそれが不思議な没入感に作用して、僕はトーストを食べ終わった後も、なんとなくテレビをつけっぱなしにしていた。そのままカフェオレを啜って、映画を見続ける。
洋画の名作の再放送らしい。主人公の男が、銃撃戦をしながら、敵の弾を華麗に避けている。
「バトルものかぁ」
思わず独り言を言う。一人暮らしの部屋にはもちろん僕しかいないので、言葉が部屋に響いて、誰にも拾われずに消える。
途中から見てるからストーリーがよく分からなかったけど、バトルものなら何も考えずに見られる。見終わってからもう一回寝てみるか。
もし僕の人生が映画だったら、ジャンルは何になるんだろうか。
恋愛ものって言うほどロマンチックな恋愛をした経験もなければ、スポ根映画みたいに部活で全国大会を目指したこともない。もちろんバトルをしたこともない。高校生の頃、同じ学年のヤンキーにカツアゲされた時も、必死に走って逃げただけだった。
特に何かひとつのことに熱中したり、めちゃくちゃ頑張ったり、そういったパッションとは縁のない人生だった。友達に誘われてなんとなくで部活に入って、好きとかよく分からないけど告白されたからなんとなく付き合って、勉強は別に好きじゃないけど普通に出来るから、なんとなく別に頑張らなくても入れそうな今の大学に入った。今も出された課題だけなんとなくやって、残りの時間でなんとなくバイトして、なんとなく出来た友達となんとなく仲良くしている。
1本の映画に人生を例えるには、僕の人生にはあまりにも起伏がない。僕みたいな人間を映画の主人公に据えてはいけない。もっとやる気があって、情熱があって、何かを巻き起こす力がある人が主人公じゃないと、つまらない映画になってしまう。
「自分の人生の主役は自分だ」と言う人がいる。確かにそれはそうかもしれない。人それぞれの人生があって、物語があるんだろう。その人の物語を体験出来るのは、その人しかいない。
でも、自分が主役の人生が、面白いかどうかは保証がない。僕の人生は僕が主役だけど、その物語は面白いんだろうか。僕が主役で、普通の家庭に生まれ、普通に大きくなって、普通に進学して、普通に暮らしている。絶対に面白くない。
そんなことを考えながらぼーっと画面を見ていると、いつの間にか映画は終盤へ差し掛かっていた。さっき絶体絶命のピンチを迎えたと思っていたテレビの中の主人公は、今は形勢逆転して相手を追い詰めている。捉えられていた仲間が自力で脱出し、加勢してくれたようだ。きっとこのままバトルに勝ってハッピーエンドなんだろう。
深夜に「人生とは」なんてことを考えたせいか、腹が膨れたせいか、ようやく眠気が訪れた気がした。
映画の続きも気になったけど、なんとなく先が読めるし、明日も学校あるし。眠ることの方が大事だ。僕はテレビを消して布団に潜り込む。
たまたまテレビをつけたらやっていたから見ていただけで、あの映画にさほど興味があるわけではない。僕はきっと、もうあの映画の結末を見ることはないだろう。一部分しか見ていないから、面白いのかつまらないのかもよく分からなかった。
もしかしたら、僕もそうなのかもしれない。映画には大抵起承転結があるけど、もしかしたら僕の人生にはまだ「起」も来ていないのかもしれない。僕は僕の映画を、まだ一部分しか見られていない。これから何かが起こって、波乱ばかりの激動の人生があり、大団円のハッピーエンドで終わる。そんな可能性もある。
僕の人生が映画だったら、なんのジャンルなのか分からない。でも、全部見た後に、心の中に何かが残る映画であってほしい。面白くないかもしれないし、もしかしたらハッピーエンドじゃないかもしれない。でも、僕が主人公だったことを、僕が後悔しないような。そんな映画がいい。
落ちそうな意識の狭間で、そんな考えが浮かび、消えていく。僕はそのまま意識を手放し、いつの間にか眠りについた。
Misskeyの「ノート小説部3日執筆」という企画に合わせて書きました。今回のお題は「映画」でした。
タイトル通り3日に1回開催してくださっている企画なので、今後もちまちまと参加出来たらいいなと思っています。これで人生で4作目くらいの小説なので、まだ全然これからがんばるんですけども。
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最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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